これまでの植生調査の取組みについて、茨城県自然博物館研究報告第21号(2018年12月)P23~32において、「土浦市宍塚大池の耕作放棄田における希少種の保全に向けての取り組み」として、小幡和男、嶺田拓也、石井潤、及川ひろみの各氏から報告された。
https://www.nat.museum.ibk.ed.jp/wp-content/uploads/2021/03/2021-03-17_17-29-52_722609.pdf
(要旨)
土浦市宍塚の宍塚大池の西側に位置するイナリヤツとよばれる約 25 a の耕作放棄された谷津田で,湿地に生育する希少種の保全のため種々の管理作業と植生調査を行った.主な管理作業は,草刈り,耕起,特定植物の引き抜きなどである.
2012 年から 2017 年にわたり実施した植生調査で 168 種の維管束植物を確認した.その中に,環境省および茨城県が指定する準絶滅危惧種以上の絶滅危惧種が 10 種含まれていた.さらに,これらに準ずる 6 種を加えて保全の対象となる希少種を 16 種記録した.
絶滅危惧種については,ため池に近く,耕作放棄年が新しい谷津田の下流部の区画に多くの種が生育していた.また,絶滅危惧種は,耕起や草刈りによるかく乱に反応して発生する傾向が見られた.
一方,168 種の中に外来種が 22 種含まれていた.このうち,セイタカアワダチソウ,ノダアカバナ,キショウブの引き抜きを行ってきたが,これらの種の著しい増加は見られず,作業が一定の成果を示していると考えられる.
また,外来種に加えて,耕作放棄田の優占種となりほかの植物の生育に大きな影響をおよぼす可能性の高い種を管理対象種として 16 種記録した.
その中で特に放置すると著しく増加すると考えられる,コブナグサ,アシカキ,カンガレイ,チゴザサについて,刈り払いや耕起による管理作業を実施してきた.これらの作業もまた希少種の保全に有効であると考えられた.